【イチから解説】2022年のノーベル経済学賞 そこには“ある日本人”の功績があった!

【イチから解説】2022年のノーベル経済学賞 そこには“ある日本人”の功績があった!

【イチから解説】2022年のノーベル経済学賞 そこには“ある日本人”の功績があった!

10月10日に発表された2022年のノーベル経済学賞受賞者。元FRB議長(=アメリカ連邦準備制度理事会)のバーナンキ氏が3人の受賞者のうちの1人に選ばれた、その理由は? そして受賞理由に出てきた“ある日本人”の名前とは? また、なぜ日本人がノーベル経済学賞を一度も受賞できていないのか、その理由と課題は? 日本テレビ報道局経済部の安藤佐和子解説委員が、注目の人物に焦点を当てて解説します。

■2022年のノーベル経済学賞 受賞理由は…
2022年のノーベル経済学賞は、アメリカの元FRB議長のベン・バーナンキ氏ら3人が選ばれました。バーナンキ氏は2006年からFRB議長を務めていたので、ちょうどアメリカのリーマンショックの時に金融政策の責任者トップでした。

しかし、今回、選ばれた直接の理由はそれではありません。スウェーデン王立科学アカデミーは選定理由を「金融危機の際の経済における銀行の役割についての研究」を評価したものだとしています。

バーナンキ氏はFRB議長になるずっと前の1983年に、1930年代の世界大恐慌の研究論文を発表しています。その中で、銀行の倒産など「銀行が機能不全になることは、その時だけでなくその先長く、そして深く景気悪化に影響を与える」ということを証明しました。

その研究論文は、その後の世界金融危機や新型コロナによる経済混乱の際に、世界中の政策責任者の判断に役立った、つまり、「金融機関の倒産などで経済悪化を長引かせないようにするための政策」をとるのに重要な役割を果たした、と評価されました。

■受賞理由のペーパーに日本人の名前
さて、ノーベル経済学賞と言えば毎年、日本人で期待される人物がいます。プリンストン大学の清滝信宏教授です。2022年も残念ながら選ばれませんでしたが、実はバーナンキ氏らの受賞理由を説明するペーパーに、7か所もKiyotakiという名前が出てきています(脚注を含む)。

清滝氏の論文が、今回選ばれた「経済における銀行の役割」に関連する重要な研究として紹介されているのです。具体的には清滝氏とジョン・ムーア教授との共著「クレジットサイクルズ」(1997年)が取り上げられ、「土地などの資産価値と担保の面から見た金融機関の負のスパイラルに着目した」「最も影響力ある論文」と説明されています。

■「清滝・ムーアモデル」とは
この論文で有名になったのは「清滝・ムーアモデル」と呼ばれるもので、経済悪化で土地の担保価値や株価が下がると、銀行は企業や個人への融資を減らすので、それによって投資が減り、経済活動が収縮して経済が悪化する。かつ、それは何倍にも増幅され、長引くということを証明したものです。

■清滝信宏氏とは何者か
清滝氏とはどんな人物なのでしょうか。経歴は以下です。

●1955年生まれ。
●東大卒。東京大学大学院と米国ハーバード大学で博士号を取得
●その後、アメリカやイギリスの大学でマクロ経済学を教える
●2006年からNY連邦準備銀行のコンサルタントも務める
●2020年 日本で文化功労者に選ばれる
●現在、アメリカの名門プリンストン大学の教授

清滝氏は日本を離れて40年になりますが、東京大学で講演をしたり、日本の研究も続けたりしています。
たとえば、2022年8月に行われたオンラインセミナーでは、終身雇用の終焉と人材投資への影響などについて講義しました。(東京大学東京カレッジYouTubeチャンネル「無形資産、不平等、長期停滞」)

少し紹介しますと、終身雇用が崩れた後の経済にはメリット・デメリット両方あるとしていて、メリットは中途採用の市場が広がり、働き手が相性の悪い企業から相性の良い企業に移って生産性をあげることができることを説明しました。

一方で、副作用として、企業側が「トレーニングしてもどうせ転職してしまうだろう」と心配し、社内での職業訓練を少なくしてしまって、社内での無形資産(技術)の蓄積が遅れ、生産性が上昇しなくなる、という研究結果を講義しました。

■清滝氏論文の引用は今後の受賞につながるのか
今回、ノーベル経済学賞の受賞理由を記したペーパーの中で、清滝氏の論文が引用されたわけですが、これによって来年以降の清滝氏の受賞の可能性は高まったのでしょうか?

「高まった」と見る人と、逆に残念ながら「今後の可能性は低くなった」と見る人と分かれています。

しかし、経済学の世界での貢献度は群を抜いており、また「清滝・ムーアモデル」以外でも興味深い研究を続けていることから、今後も経済学の分野で世界的に活躍する人物として注目され続けることでしょう。

■なぜ0人 日本人のノーベル経済学賞
さて、今まで日本からは一度も受賞者が出ていないノーベル経済学賞。その理由は何なのか? 学習院大学の宮川努教授は理由の1つについて「日本はデータ取得が困難な国」だと分析しています。

(宮川氏)
「経済学では大がかりなデータをとって実証、分析する必要性が増えているが、日本は海外に比べてデータを提供してくれる協力者を集めたり、データの取得がなかなか難しい側面がある」

確かにマイナンバーカードの取得が進まないといった例からも、日本では海外に比べて個人情報を提供することへの警戒感が強いのだろうということがわかります。またコロナ禍に「デジタル後進国」であることも浮き彫りとなり、「データ収集」の困難さも想像がつきます。

他の理由として、ノーベル経済学賞に詳しい慶応義塾大学の坂井豊貴教授は次のように述べています、「やはり経済学というのはアメリカが中心の学問分野です。アメリカに行って研究の大きな流れを作る、ということをやらないとなかなか賞は得られない印象を持っています」。

■ノーベル経済学賞と日本人
今回、ノーベル経済学賞と日本人について考えてみましたが、ノーベル経済学賞にとどまらず、日本人の世界でのプレゼンス、世界への貢献について考えさせられる結果となりました。

そういった中で、今、海外留学する日本人が少ない、という状況一つとっても、改善するにはどうするべきなのか? 教育の見直しも含めた取り組みも必要です。

また、我々メディアも、海外で活躍する日本人により光を当て、日本の若者のロールモデルが増えるよう、変化を起こせるのではないかと感じました。
(2022年10月27日放送)

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