「心の拠り所」失った患者の１か月 行き場ない患者ら支援の動きも ビル放火殺人事件（2022年1月17日）
去年１２月１７日に大阪・北新地の心療内科クリニックで起きた放火殺人事件では、院長や患者ら２５人が犠牲となりました。１月１７日で発生から１か月。あのクリニックには８００人の患者がいましたが、行き場を失った患者の思い、そしてクリニックを支援しようという動きを取材しました。
亡くなった西澤弘太郎院長（４９）のクリニックではリワークと呼ばれる休職した人たちへの職場復帰の支援などを行っていました。
患者の１人だった１９歳の野崎歩睦さん。月に１回のペースで通っていて、本当なら事件当日も診察を受ける予定でした。しかし偶然、母親から映画に誘われて予定を変更。その後、事件が起きました。
（クリニックの元患者 野崎歩睦さん）
「事件当日も何もなかったらあそこに行く予定だったので、本当に運が良くて。予定を間違えたら自分もあの場にいたのかもしれない。自分は運良く生かしてもらった」
生まれつき軽度の発達障害がありコミュニケーションをとるのが少し苦手です。野崎さんは高校卒業後から回転寿司店で働いていて、職場でのコミュニケーションの取り方を相談するためにクリニックに通っていました。
（野崎歩睦さん）
「毎月行くたびに先生が“大丈夫？”“仕事やれる？”といろいろ心配してくれた。なんかあったら連絡してねという一言だけで、自分は毎日会社を頑張ろうという気持ちになれたので、本当に優しい先生でした」
１月１０日、野崎さんは真新しいスーツに身を包み成人の日を迎えました。
（野崎歩睦さん）
「（Ｑ新成人の目標はありますか？）長く長く生きようということだけです」
一方で課題となったのが新しい通院先探しです。事件から２０日以上経った１月７日、ようやく診察の予約がとれ、事件後で初めてクリニックへ。野崎さんの母親も苦労したと話します。
（母・野崎朋恵さん）
「問い合わせをしても連絡が来ないまま終わる病院もあった。問い合わせが殺到しているとは調べたら言っていたので、しょうがないかなと」
１０分ほどの診察を受けて通院することを決めました。
（野崎歩睦さん）
「（先生が）“大丈夫？”と心配してくれますし、なんかあったらちゃんと教えてというのを一番聞いてくれるので、やりやすいです。ここに行こうということになりました」
野崎さんのようにクリニックに通っていた患者は少なくとも８００人。事件後、多くの患者が行き場を失いました。
（クリニックの元患者）
「合う先生なら喋れるが合わない先生は喋れない。そこを探すのが大変やなと。みんな悩んでいると思います」
「すがる思いで西澤先生のところに来ていて。その先生を亡くしてしまって、どうしたらいいかわからない」
大阪府は事件後に専用の窓口を設置して、これまでに３７０件ほどの相談が寄せられています。中でも多いのは「どこに転院すればいいか」という切迫したものだといいます。
（大阪府こころの健康総合センター 道崎真知子相談員）
「すごく怖いんで夜眠れないんだとか、思い出すと涙が出てしまうと、お話ししてくださる方もいらっしゃいました。それでも次の通院先やお薬が無いという所で、現実問題、進めていけないというところで苦しまれておられるのではないか」
そんな中、行き場を失った人を救うために動き出した人がいます。
（心理カウンセラー 土田くみさん）
「当時の先生の思いを私もよく存じていますので、なにかお手伝いをと思いますよね」
心理カウンセラーの土田くみさん（５６）は、約１０年前に主催した患者へのカウンセリングを学ぶ講座で西澤院長と出会いました。まだ内科医だった頃の院長が「心を見ないと体の不調は治らない」と講座を受けに来たといいます。
（土田くみさん）
「こういう患者さんには突っ込んで聞いた方が良かったなとかね、これはただ聞いとくだけで良かったんかなとか、先生も具体的に聞いてくださった。もっともっと西澤先生と一緒に患者さんのことを語り合いたかったですよね」
土田さんは現在、まだ次の病院が見つかっていない人に向けて、カウンセリングの受付や信頼できる通院先の紹介を呼びかけています。すでに数十件の問い合わせがありますが、患者のケアが継続されていくことが西澤院長の願いなのではないかと考えています。
（土田くみさん）
「（西澤院長の）クリニックの患者様がどこの病院にも行かないようになってしまうのが一番悲しいですよね。そこのお手伝いができたらなと思います」
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