「核軍縮」か「核抑止」か 大越キャスターが見たNPT再検討会議(2022年8月2日)

「核軍縮」か「核抑止」か 大越キャスターが見たNPT再検討会議(2022年8月2日)

「核軍縮」か「核抑止」か 大越キャスターが見たNPT再検討会議(2022年8月2日)

7年ぶりの開催となったNPT=核拡散防止条約の再検討会議。各代表の演説から始まり、ここから4週間かけて核保有国と持たざる国が、いかに核拡散を防ぎ、核軍縮を進めるのかを話し合います。

ただ、今回の再検討会議は、ロシアのことを抜きに“核兵器”を語ることはできません。ロシアに対する批判は、各国から相次ぎました。
アメリカ・ブリンケン国務長官:「強制や威嚇、脅しによる核抑止は許容できない。こうしたやり方を拒絶するために団結しなければならない」
ウクライナ・トチツキー副外相:「歴史上初めて民間の原子力施設がロシア軍の軍事目標となった。核保有国が主導する核テロリズムが、現実に起きていることを世界は目撃している」
ドイツ・ベアボック外相:「ロシアは核について、無責任な発言を繰り返し、NPTが50年間で達成したすべてを危険にさらしている。今こそ先人が築いたものを守るとき。今こそ平和的な国際秩序のために立ち上がるとき」

この日は、ロシア代表も演説をする予定でしたが、なぜかキャンセルとなりました。その代わりにプーチン大統領からは、このようなメッセージが出されました。
ロシア・プーチン大統領:「核戦争に勝者は存在せず、決してその戦いはしてはならない。国際社会に平等で不可分な安全保障を支持します」

世界は今、核軍縮とは逆方向に進んでいます。ロシアの脅威により、新たに核の傘に入ることを選択した国もあります。スウェーデンとフィンランドは、軍事的中立を捨ててまで、NATO加盟を選びました。
フィンランド・ビーナネン軍縮大使:「(Q.フィンランドはNATO加盟という難しい決断を下した)ロシアによるウクライナへの侵攻。ウクライナ侵攻を契機として、世論が政治を動かし、NATOへの加盟が、ウクライナのような状況を回避する最善の策となった。(Q.今、世界は核軍縮よりも核抑止へ傾いているように見えるが)核抑止と核軍縮は、相反するものではなく、安全保障を担保するため、どちらも活かされるべき」

核兵器禁止条約の締約国会議で、議長を務めたオーストリア外務省のクメント軍縮局長は、核による抑止を選ぶ国が
増えていく今の流れを、このようにみています。
オーストリア外務省・クメント軍縮局長:「核兵器は安全を保障しない。核抑止は有効性が証明されていないし、どう機能するかは不明。仮に機能したとしても、別の状況で機能するかわからない。(Q.アメリカや中国、ロシアなどは核軍縮に興味を示していない印象だが)核抑止と核軍縮が相い入れるものなのか、核兵器が不可欠と考えたら、保有国は持ち続けたいだろうし、非保有国も持ちたがるでしょう」

NPTの再検討会議は、参加国や地域が共通の目標を盛り込んだ最終文書を全会一致でまとめられるかが焦点となります。日本も無関係ではありません。
岸田総理:「ロシアによるウクライナ侵略のなかで、核による威嚇が行われ、核兵器の惨禍が再び繰り返されるのではないかと世界が深刻に懸念している。『核兵器のない世界』への道のりは、一層、厳しくなっていると言わざるを得ません。しかし、あきらめるわけにはいきません。被爆地広島出身の総理大臣として、いかに道のりが厳しいものであったとしても、『核兵器のない世界』に向け、現実的な歩みを一歩ずつ進めていかなくてはならないと考えます。その原点こそがNPTなのです。2023年には、被爆地である広島でG7サミットを開催します。広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさないとの力強いコミットメントを世界に示したいと思います」

岸田総理の演説には、多くの人たちが注目をしていました。核軍縮・核廃絶の前線にいる人たちには、どう聞こえたのでしょうか。核兵器禁止条約の採択に貢献し、ノーベル平和賞を受賞したICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンにも話を聞きました。
ICAN・フィン事務局長:「(Q.岸田総理の演説は聞いたか)NPT再検討会議への参加。これは重要こと。良いメッセージになるが『もっと』と、いつも思ってしまう。日本は核軍縮に対し禁止条約で、より大胆なステップを取るべき。広島と長崎で起きたことが、国際法上『違法である』と周知させ、日本はどこに対しても『決して行わない』と約束すべき」

世界には、13000発の核弾頭が存在しています。
ICAN・フィン事務局長:「(Q.77年間、核兵器の使用はなかった。この成功を次世代に継承するには何が必要か)核兵器を使わなかったのは、幸運にすぎない。偶発的・意図的を問わず、核を使わずに済んだのは、核抑止論やパワーバランスだけではなく、核兵器に“悪の烙印”を押す、積極的な社会運動もあったから。『その一線は越えてはならない』と。ロシアによる核使用の恫喝は、核の威嚇が普通だった時代へと世界を逆行させている。日本など各国政府が『NO!容認できない』と言わないと、核兵器を開発する国が増えてしまう。独裁者や人権侵害者らに核を使うきっかけを与えてしまう。中国は、台湾へ使うかもしれない。北朝鮮も同様。民主主義国家や人権などを守る国家は、常に危険にさらされる。今こそ解決しないと 核戦争になるかもしれない」

◆大越健介キャスター(ニューヨークから中継)

(Q.各国の主張を取材して、どのような印象を受けましたか)
やはり、ロシアが、今回の会議の圧倒的な主役であることを感じました。そして、参加国の分断は、開催前から指摘されていましたが、それは想像以上に深刻だと感じました。その分断の第一は、それは核保有国同士が全く別の方向を向いているということです。最大の核保有国であるロシアが、核兵器の使用をほのめかしているだけでなく、中国も核兵器保有の実態も一向に透明性が高まる気配がありません。それをアメリカなど西側が厳しく批判するという構造のなかでは、なかなか合意点を見出すのは難しいのが実態です。

(Q.核を持たない国同士の隔たりが大きくなっていますよね)
まさにその通りだと思います。アメリカの核の傘に守られている日本や、ウクライナ危機をきっかけにしてNATOへの加盟を決めたスウェーデン、フィンランドといった国々の対応は、安全保障の現実的な対応として理解はされても、必ずしも、すべての国の共感を得ているわけではありません。核兵器禁止条約の締結を主導したオーストリアの高官はインタビューで、「核兵器は安全を保障しない。核兵器の影響はあまりにも大きい」と警鐘を鳴らしていました。

(Q.NPTの再検討会議は、今後4週間かけて討論と合意文書の取りまとめが行われるということですが、
前途は険しそうですね)
合意が取りまとめられるとしても、今回は、核軍縮の工程といった具体的な中身には至らない物とみられています。ただ、悲惨を極める核戦争は避けたいという思いは、ロシアを含めて共通しているはずです。振り返ってみれば、2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、世界各国がこれだけ一堂に会して、温度差こそあれ、ひとつのテーマにともに向き合うのは、初めてと言っていいかもしれません。今回の合意が、ごく初歩的な内容にとどまったとしても、その意味は小さくないと思います。なぜなら、核の問題にとどまらず、地球上には、温暖化防止や、新型コロナのパンデミック対策など、各国が利害を超えて取り組まなければならない問題が山積しているからです。その意味で、今回のNPT再検討会議が、さらなる地球規模の問題への取り組みにもつながる、小さくても価値ある一歩になるよう、期待して見守りたいと思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>

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