【解説】エーザイ「アルツハイマー病の新薬」承認申請目指す
記憶力などが徐々に低下していく「アルツハイマー病」の新たな治療薬について、製薬大手のエーザイは28日、「これまでにない新たな効果が示された」と発表しました。“画期的な治療法”となるのでしょうか。
「“原因”を取り除く」
「認知症“5人に1人”へ」
「課題も…」
以上の3つのポイントについて、詳しく解説します。
■エーザイ「前向きなインパクトを社会にもたらす」
今回の新薬「レカネマブ」は、日本の製薬大手・エーザイと、アメリカのバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬です。最大のポイントは、「症状の“進行自体を抑える”効果が示された」という点です。もし、このまま承認された場合、日本初で画期的なものとなると思われます。
そもそも「アルツハイマー病」とは、「脳の神経細胞に“アミロイドβ”という異常なタンパク質が蓄積して、神経細胞が破壊され脳が萎縮することで記憶力や判断力が低下していく」という病気です。
新薬「レカネマブ」は“アミロイドβ”を取り除いて、神経細胞の破壊を防ぎ、病気の進行を抑えることが期待されています。神経細胞は一旦壊れると元に戻せないため、壊れる前の早期投与が重要です。
エーザイは、「来年3月までに、アメリカ、日本、EU(欧州連合)での承認申請を目指す」としています。エーザイの内藤晴夫CEOは28日の会見で、「膨大な家族介護を含む介護負担が低減される、社会的な生産性が回復するなど、前向きなインパクトを社会にもたらすものと期待している」と述べました。
■これまでの「アルツハイマー病」治療薬との違いとは
エーザイは「レカネマブ」の臨床試験の内容を発表しました。最終段階の臨床試験では、軽度の認知症患者など約1800人を対象に行われました。約1年半にわたり、「薬を投与したグループ」と「投与していないグループ」を比較しました。その結果、「投与したグループは、投与していないグループと比べて、“27%”症状の悪化が抑制された」とエーザイは発表しました。この“27%”という数字は、高いのか、低いのか、どのように受け止めればいいのでしょうか。
アルツハイマー病は、段階的に進行していきます。「生活は普段通りできるものの、物忘れが多くなる」など認知機能に低下がみられます。その後、本格的に発症した場合、「日付を思い出せない」など軽度の段階、「家族の名前を忘れる」など中等度の段階、「自宅の場所がわからない」などの重度の段階へと徐々に進行していきます。
エーザイは、認知症を発症する前、認知機能に低下がみられる段階で「レカネマブ」を投与した場合、「認知症の軽度になるまでかかる時間が、“2.53年”長くなる。さらに、中等度になるまでは“3.34年”長くなる」としています。つまり、「病気の進行を、2~3年程度遅らせることができる」ということです。
これまでのアルツハイマー病の治療薬と何が違うのでしょうか。今、日本で使われている治療薬は、例えば、「人の名前が出てこない」、「約束を忘れてしまう」といった“症状”を緩和させるものでした。一方、今回の「レカネマブ」は原因となる物質に働きかけて、“病気の進行そのものを遅らせる”ことができる点です。実用化された場合、これまでにない画期的な治療法となります。
■「高齢者の5人に1人が認知症になる」予測も
アルツハイマー病は、認知症の一種です。国内の統計によると、認知症の7割を占めています。認知症全体では、国内に“約600万人”いると推計されています。また、3年後の2025年には“700万人”と、実に「高齢者の5人に1人が認知症になる」と予測されています。
さらに、若くても発症することがあります。65歳未満の若年性認知症は“3万5000人以上”と推測され、誰もがなりうる病気です。
■“認知症のサイン” 判断の目安とは?
だからこそ、“認知症のサイン”に気づくということが大切になってきます。
代表的な症状である「物忘れ」には、“加齢”によるものか、“認知症”によるものか、なかなか区別が難しいです。そこで、判断の目安があります。たとえば「体験したことの一部を忘れるのは、“加齢”によるもの」、「すべてを忘れているのは、“認知症”によるもの」が判断の目安となります。
例えば、「朝ご飯のメニューを忘れただけの場合は、加齢によるもの」、「朝ご飯を食べたこと自体を忘れている場合は、認知症によるものかもしれない」ということです。
そして、「学習能力」についても、新しいことを覚えられないのは、認知症のサインです。さらに、探し物でも、加齢の場合は自分で努力すれば見つけることができます。一方、認知症の場合は「何度も同じ物を忘れる。いつも探し物をしている」。あるいは、「誰かがとった」と他人のせいにするといった特徴があるということです。
■「レカネマブ」承認後の課題とは? 専門家に聞く
ただ、今回の新薬が承認された場合でも、課題は残ります。
医療経済学が専門の横浜市立大学・五十嵐中准教授は、「実用化されても、当初は費用が高額になるだろう。そうなると、どういう人を優先して、投与すべきかをしっかり考えないといけない。その際、患者本人だけではなく、介護する立場の家族など、いろいろな面から総合的に判断することが求められる」と指摘します。
さらに、エーザイによると、「レカネマブ」は本格的に発症する前、早い段階で投与するのが効果的とされていますが、早い段階ではなかなか気づくのが難しいことや、自分でもなかなか認めないこともあるといった課題もあります。
◇
高齢者の5人に1人が認知症になりうる中で、今回の新薬がもし実用化にまでこぎ着ければ、多くの患者や家族にとって、希望の光となり得ます。ただ、その一方で、たとえ認知症になったとしても、患者や家族が安心して暮らせるような、サポートを充実させる環境整備も重要な課題です。
(2022年9月29日放送「news every.」より)
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