【解説】“弔い選挙”自民圧勝 今後の政治はどうなる?
10日に行われた参議院選挙は自民党の大勝で終わりました。安倍元首相の銃撃事件がどのように影響したのか、今後の政治はどうなるか分析しました。
「事件後“弔い選挙”」、「○○層が自民に」、「改憲どうなる」、以上の3つのポイントについて、詳しく解説します。
■自民大勝…改選過半数にあたる63議席獲得
自民党は単独で改選議席の過半数にあたる63議席を獲得しました。公明党の13議席と合わせると76議席となり、与党の大勝となりました。
投票率は過去4番目に低い52.05%でしたが、前回の2019年の参院選と比べると、3.25ポイント上回りました。
■「安倍元首相の銃撃事件が影響」と指摘も
今回の参議院選挙では、「有権者の投票行動に安倍元首相の銃撃事件が少なからず影響した」との見方があります。
安倍元首相が亡くなった翌日の9日、岸田首相は腕に喪章をつけて応援演説に臨み、「暴力に屈しない」と訴えました。他にも、各地で自民党幹部らが喪章をつけて街頭に立ち、いわゆる「弔い選挙」が展開されました。
こうした情勢に、与野党からは「安倍元首相の事件が無党派層や保守層の票を一定数上乗せする結果になった」との指摘も出ています。
日本テレビ系列と読売新聞社が行った出口調査によると、普段の支持政党・比例投票先について、普段は支持政党がない「無党派層」で最も多かった投票先は自民党で約23%でした。これまでは「無党派層の票は野党に流れることが多い」と指摘されていましたが、今回は様子が違いました。
こうしたことを背景に、自民党は大勝利を収めました。一夜明けた11日、岸田首相は「安倍元総理の思いを受け継ぎ、特に情熱を傾けてこられた拉致問題や憲法改正など、ご自身の手で果たすことができなかった難題に取り組んでまいります」と述べました。
■憲法改正 “スタンス異なる”公明党
岸田首相がリーダーシップをとっていく上で、安倍元首相の死がどう影響するのでしょうか。焦点は次の3つです。安倍元首相の悲願だった「憲法改正」と「防衛費の大幅増額」、それと岸田首相が最もやりたいという「経済再生」です。
まず、憲法改正です。10日に行われた参院選の結果、憲法改正に積極的な議員の数は衆参ともに3分の2を超えました。数の上では憲法改正を発議できるため、安倍元首相らの悲願に近づいたように見えます。
しかし、各党の憲法に関する主張は自民・維新・国民は一致点も多いですが、明らかにスタンスが異なるのは公明党です。
公明党は憲法9条の1項と2項、戦争の放棄と戦力の不保持は維持したまま、自衛隊を憲法に明記すべきとの意見について、「引き続き検討」と述べ、消極的です。10日からの山口代表の発言を聞いても、平たく言えば、「改正はやらない」と言っているも同然という印象です。
与党内でも温度差があり、岸田首相も「具体的な中身において3分の2以上を結集できるような議論を進めたい」と述べています。つまり、憲法改正に向けた議員の頭数はそろいましたが、何をどう変えるか、その共通項を見いだすこと自体、決して簡単でないということが、岸田首相の発言にもにじんでいるということです。
■防衛費の大幅増額 公明代表「2%や金額が先にあるのではない」
次に、安倍元首相が旗振り役だった「防衛費の大幅増額」です。ウクライナ侵攻、北朝鮮情勢、中国軍の増強などを受けて、国民の中にも増額への理解がじわりと浸透しはじめているとみられます。
日本テレビ系列と読売新聞社による出口調査によると、今後の防衛費について、「GDP(国内総生産)比2%以上」、「1~2%の範囲で増額」と考える人が4割弱と、「維持」、「減らす」と答えた人を上回りました。
しかし10日夜、公明党の山口代表が「2%や金額が先にあるのではない。必要な防衛力とは何か、どこを強化すべきなのか、ここを極めることが大事」とクギを刺しました。
一方、岸田首相も11日、「内容・予算・財源、この3点セットで考えなければいけない。年末に向けて、3点を具体化して明らかにしていきたい」と述べました。
■「異次元金融緩和」続けるも地獄・やめるも地獄
岸田首相自身が一番やりたいという「経済の再生」はどうでしょうか。
もし、物価高・円安のダブルパンチがさらに深刻になった場合、今の金融政策を続けるか、変えるか、非常に難しい選択となります。
アベノミクスの柱「異次元の金融緩和」を続けた場合、円安・物価高に歯止めがかかりません。一方、金融緩和をやめた場合、金利が上昇し、住宅ローンの支払いが困難になる人も出て、景気がまた冷え込むかもしれません。
いわば「続けるも地獄、やめるも地獄」。今、袋小路にはまり込んでいる日本経済が短期間で効果を上げるのは、非常に難しい状況です。
◇
「これまでの政治路線を継続させよう」と政権に強く働きかけてきた安倍元首相が亡くなった今、岸田首相がこれからどれだけ自分自身のカラーを打ち出せるのか、具体策を掲げて実現できるのか、いよいよ問われることになります。
(2022年7月11日放送「news every.」より)
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