【クレムリンに無人機攻撃か】誰が実行?自作自演? 小泉悠さん「かなり大きな展開が起きそうな局面を我々は見ている」
ロシア大統領府は3日、モスクワにある大統領府「クレムリン」がウクライナの無人機による攻撃を受けたと発表しました。一方のウクライナ側は、ロシア側の主張を否定しています。誰が攻撃を実行したのか、またその狙いは何かなど考えられる可能性について、ロシアの軍事や安全保障政策に詳しい東京大学・先端科学技術研究センターの専任講師、小泉悠さんに聞きました。
■プーチン大統領の居場所特定は「困難」…ウクライナ側が実行した可能性は「低い」?
有働由美子キャスター
「日本時間3日夜に公開された『クレムリン』をとらえたカメラの映像では、クレムリン上空に飛行物体が飛来し、旗を越えた辺りで爆破されました。この映像から、どのような分析ができるのでしょうか?」
小泉悠氏
「何らかのドローン、なおかつヘリコプター型ではなくて、固定翼式、普通の飛行機のようなドローンが飛んできて爆発したということは明らかだと思います。ただ、このような形式のドローンはどこの国の軍隊も今や、持っていますし、一部、中国製のものなどは通販でも買えるようなんですよね。実際、ウクライナは通販で中国製ドローンを購入して、大規模に使うなどしています。この映像だけで誰がやったとか、どういう意図でやったとか、そこまでは言えないだろうと思います」
有働キャスター
「ロシア側によると『ウクライナによる攻撃』ということですが、本当にウクライナによる攻撃とみてよいのでしょうか。ウクライナは関与を否定していますが…」
小泉悠氏
「ウクライナがやったとしても、おかしくはないと思います。戦争中ですし、今、かなりロシア領内での攻撃を強化していることもあります。ドローンで攻撃したり、破壊工作部隊を送り込んだりと様々な方法で攻撃を実行してはいます。ただ、ロシア側が主張する『プーチン大統領の命を狙った』のかどうかについては、私は懐疑的です。というのも、それはかなり難しいはずだからです。プーチン大統領はクレムリンの中でもあちこち動き回っているはずですし、実際、今回はクレムリンにはいなくて、ノボオガリョボという郊外の公邸の方にいたと言っていますから、どこにいるのかということをリアルタイムで把握して、そこにドローンを誘導して攻撃しないといけないわけですよね。これは、まず不可能だと思います。ですから、これだけの少数のドローンで『確実にプーチン大統領を殺害できる』とウクライナが踏んだ可能性は低いと思います」
「もしも本当にウクライナ側が実行したとしたら、私は政治的に象徴的な効果を狙ったのではないかと思います。実際にクレムリンに外国の爆弾などが飛んできて燃え上がるという現象は、第二次世界大戦以来、発生していないはずです。もしもウクライナが実行したのであれば、ロシアに大恥をかかせられるような政治的効果があると思います。ただ、ウクライナ側は『我々ではない』と主張していますので、これについても何とも言えないところですよね」
有働キャスター
「実際、どうみていますか?」
小泉悠氏
「ここまで話した理由により、ウクライナが実行した可能性もあります。他方で、クレムリン側の声明の最後に『我々は適切な時期と場所に報復する権利を留保している』と脅しめいた文句があります。そのため、ロシア側がウクライナにさらなるプレッシャーをかける、あるいは戦場で今より烈度の高いことをするための正当性を確保する目的で、こういうことを実行したという可能性があります。私は現状、どちらとも判断がつかないというのが正直なところです」
■ロシアの“自演自演”なのか? 今後「どこまでやるのか」が問題
小栗泉・日本テレビ解説委員
「ロシア側の“自作自演”とした場合ですが、今、ロシアについては『兵士が足りない』というようなことも言われています。そういう意味で、『ウクライナがこの象徴的な攻撃を実行した』ことにして、国際社会が『ウクライナ側が悪い』と思うように仕向けたいという狙いがあるということでしょうか?」
小泉悠氏
「国際社会に対しては、そういうことを主張したいでしょうし、国内向けには『こんな、ひどいことをされた』『国家のシンボルに攻撃を受けた』のだから、『皆、戦争に協力しなければいけない』という方向に確実にもっていくのでしょうね。ロシア側の主張が事実であっても、そうでなくても。問題は、その場合にどこまでやるのか、ということです。例えば、ずっとうわさがありますけど『第二次動員をかけるのではないか』とか、『戒厳令を発令して総動員までやるのではないか』といった方向にいくのか。それとも、クレムリンが攻撃されただけで人も死んでいないので、『報復としてキーウの中心部に何発か撃ち込む』程度にするのか、これからのロシアの出方を見ないと分からないですよね」
■核兵器の使用…踏み出す可能性は
有働キャスター
「どちらの攻撃か分からない上で、プーチン大統領はどのような心境で、どのような行動に出そうなのでしょうか?」
小泉悠氏
「これがもしもロシアの自作自演ではなくて、本当にウクライナの作戦によるものであったとするならば、プーチン大統領は相当怖いのではないかと思います。かなり暗殺を恐れたり、他人を信じられなくなったりして、従来に比べて相当、“パラノイア”的になっているのではないかと以前から指摘されていたわけです。クレムリンのような“居場所が知られている”所にいたら『危ない』というので、散々言われていますが、あちこちに『セーフハウス』を持っているらしいので、もうクレムリンに出てこなくなってしまうのかもしれません。または、『こういうことをするやつらを一掃しなくてはならない』と、激しい攻撃、例えば核兵器を使うといった行動に出ることも考えられなくはないです」
「ただやはり、この1年2か月の戦争で、プーチン大統領はどれほど苦しくても核兵器は使わなかったですし、国民の動員も非常に慎重でした。それはやはり、彼がまだ正常な判断能力を失っていないからだと思います。そのため、この程度の攻撃でプーチン大統領が取り乱して、これまで実行してこなかった行動に出るとは、少し考えにくいと思います」
「一方で、『この先もう戦争がなかなかうまくいかないから』と、これまで実行してこなかったことを意図的に実行する…と彼が計算ずくで今回の攻撃を自作自演として実行した可能性はあります。その場合、今後の展開は分からないですね。核兵器使用は依然として非常にハードルが高いと私は思っています。例えば、キーウ中心部のウクライナ大統領府や国防省に対する攻撃や、これまでロシアが実行してこなかったような戦い方もあるので、そういうことを始める可能性はあります」
■ウクライナ側の反転攻勢…観測が広がる中 「かなり大きな展開が起きそうな局面を我々は見ている」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(『news zero』パートナー)
「政権の中枢が攻撃されたからこそ、この緊張感だと思いますが、ウクライナ侵攻全体の今後の情勢をみるにあたり、重要になる点はどのようなことでしょうか?」
小泉悠氏
「5月9日に旧ソ連がナチスドイツに勝利したことを祝う『戦勝記念日』があり、これがロシアとしては最大の国家的イベントなんです。プーチン大統領としては、この日にあまり格好悪いことはしたくないですし、できれば国民に対し“成果”をはっきりと示したいと思います。ただ現状、そういうことを言える材料は何もないということなので、これから先、1週間くらいで今回の攻撃を理由にして、何か大規模な軍事行動に出るのかもしれません」
「もう1つは、ウクライナの反転攻勢が『もう近い』と言われているわけで、ロシア側の動きを待たずにウクライナ側が大規模な攻勢を始めてしまう可能性もあります。どちらが早いのか分かりませんが、かなり大きな展開が起きそうな局面を我々は見ているのだと思います」
有働キャスター
「それらは『何日以内』ということは言えますか? 非常に近いのでしょうか…」
小泉悠氏
「それを明言するのは、なかなか難しいと思います。ただウクライナにしてみれば、5月の割と早い段階で攻勢をかけておきたいのではないかと思います。というのは、ロシア側はバフムト周辺で非常に大きな損害を出していますから、その損害から立ち直り再編成をする前、なおかつ気温が上がり地面のぬかるみが収まるころではないでしょうか。あまりぐずぐずしていると、秋の遅くにはまたぬかるみの時期が始まってしまいますから、それまでにできるだけ長く作戦の期間を確保するとなると、それほど長くは待たないのではないかと思います」
「ロシア側も今回、こういうことをされて本当に報復する気があるのであれば、比較的早く実行するでしょう。もちろん『何日に』と言うことはできませんが、割と短期間でそういう行動に出るのではないかと思います」
(2023年5月3日放送「news zero」より)
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