【解説】日銀総裁へ…戦後初の“学者出身”植田和男氏を起用へ 私たちの生活への影響は
政府は、日本銀行の次期総裁に元・日銀審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めました。政府は14日、副総裁を含めた人事案を国会に提出します。サプライズ人事となった植田氏の起用。新たな総裁となれば、私たちの生活はどうなるのでしょうか。
●“異例”の人事
●“副作用”どうする?
●住宅ローンへの影響は?
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
■“初の学者出身”植田氏のプロフィール 「量的緩和」「ゼロ金利」に理論的な裏付け
植田氏は東京大学の教授を経て現在は名誉教授となり、共立女子大学の教授でもあります。1998年、日本銀行政策委員会の審議委員に46歳という異例の若さで就任し、2005年まで務めました。
政策委員会とは、「日銀の最高意思決定機関」と言われ、重要な意思決定はこの政策委員会での議論を経てなされます。植田氏は審議委員を務めている間、市場に出回るお金を増やす「量的金融緩和策」や金利を限りなくゼロ近くまで誘導する「ゼロ金利政策」を導入する際に、経済学者として理論的な裏付けをしました。金融政策では「日本の第一人者」とも言われ、主要国の中央銀行の幹部とも親交があり、国際金融の世界でも名前が知られています。
先週に突然、名前が挙がった植田氏は10日、メディアの取材に応じました。“もし総裁をやるとしたら…”との質問に「学者でずっと来ましたので、いろいろな判断は論理的にするということと、あと説明をわかりやすくするということが重要かと思います」と答えていました。
植田氏が日銀総裁に就任すれば、戦後初の“学者出身の総裁”になります。平成に入ってからの総裁だけを見ても、日銀出身者か旧大蔵省の出身者でした。
1989年 三重野康氏 日銀出身
1994年 松下康雄氏 旧大蔵省出身
1998年 速水優氏 日銀出身
2003年 福井俊彦氏 日銀出身
2008年 白川方明氏 日銀出身
2013年 黒田東彦氏 旧大蔵省出身
(日銀HPより)
市場は“次期総裁は日銀出身者で、特に副総裁経験者の可能性が高いのでは”とみていました。しかし、ふたを開けてみると予想に反して、初の学者出身の植田氏を起用する方針を固めるという“サプライズ人事”となった形です。
■そもそも「日本銀行」「日銀総裁」とは?
そもそも日本銀行とは何なのか、私たちの生活にも直結するその役割を改めて確認します。
「銀行の銀行」とも言われていますが、最も重要な役割の1つが「物価の番人」、つまり物価の安定を図ることです。年に8回開かれる「金融政策決定会合」という会議で、世の中に出回るお金の量や、金利の引き上げ・引き下げについて議論し、決定します。この金融政策決定会合の議長を務めるのが「日銀総裁」で、日本の経済や金融市場に絶大な影響を与える重要な職務です。
任期は5年で、年収は約3500万円と決められています。かなり高くも見えますが、民間と比べてみますと、メガバンクの頭取やグループ全体の社長の中には、役員報酬が2億円を超える人も多いです。日銀総裁は日本経済の命運を握る重責がありますが、民間と比べると年収に大きな差があります。ただ、岸田首相の年収は約4000万円ということですので、総裁の報酬も公職の中ではかなり上位になります。
■起用の狙い 黒田総裁の路線から“離れていく”メッセージ?
黒田総裁が4月に任期満了を迎えるにあたり、次の人事を最終的に判断するのは岸田首相です。植田氏を選んだ狙いは、どこにあるのでしょうか。
戦後初の学者出身の日銀総裁になれば、それ自体が岸田首相の“独自色”ということになります。10年にわたる黒田総裁の路線からは多少“距離を置く”、または“離れていく”というメッセージも伝わってきます。
岸田首相自身は国会で、「日銀総裁は主要国の中央銀行トップとの緊密な連携や、内外の市場関係者への質の高い発信力が重要」と述べていて、このような条件に一番合っていたと推測されます。
以前、日銀の審議委員を務めていた野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミストによると、植田氏には「“半ば日銀の人”というイメージもある」といいます。それには植田氏が過去に審議委員を務めていたことや、その後に日銀の金融研究所でも仕事をしていたことがあること。また、植田氏の教え子も日銀に入行しているではないかといいます。このように日銀に知り合いが多いということで、木内氏は「日銀としても歓迎される人事ではないか」と話しています。
■「異次元」枠組みを慎重に見直し? 住宅ローンへの影響は
気になる私たちの生活への影響についても、木内氏に聞きました。結論としては「急には変わらない」という見立てです。
日銀が「異次元の金融緩和」を10年近く続けてきたことで、副作用も出始めています。例えば、日銀が国の借金である国債を大量に買い続けることで、本来の市場の役割が損なわれているといった副作用を正常化することが期待されているといいます。最近の植田氏の論考などを参照すると、金融緩和自体は維持しつつ、「異次元」の枠組みの1つ1つを慎重に見直して、その副作用の方を抑えることにまず取り組むだろうと、木内氏はみています。
木内氏によると、就任後、長期金利の上限を引き上げる可能性があるといい、その結果として長期固定の住宅ローン金利の上昇が考えられます。ただ、住宅ローン契約の約7割が変動金利なので、「インパクトはそう大きくはないだろう」といい、「一般家庭でマネープランを直ちに見直す必要まではないだろう」ということです。
◇
長く続いた「異次元緩和」を正常化する出口を見いだし、調整し、実行に移すのは「至難の業」だと言われています。10日に植田氏自身が話したとおり、そのプロセスでは「論理的な判断とわかりやすい説明が重要」であることは間違いありません。
(2023年2月13日放送「news every.」より)
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