【混迷する社会】接近する中露…”影響力持つ”日本が果たすべき役割とは

【混迷する社会】接近する中露…”影響力持つ”日本が果たすべき役割とは

【混迷する社会】接近する中露…”影響力持つ”日本が果たすべき役割とは

2月1日でミャンマー軍がクーデターを起こしてから丸2年を迎える。軍事政権は抵抗する市民への徹底的な弾圧を行い、死者は2600人を超えた。混迷が続くミャンマー社会にいま、何が起きているのか。国際社会や日本が果たすべき役割とは。(国際部・鈴木しおり)

■ミャンマービールから見る国際情勢

ミャンマーを訪れた旅人なら一度は飲んだことがあるであろう、「ミャンマービール」。スッキリとした飲み口が特徴で、世界のさまざまなコンテストで受賞するなど、「アジアで最もおいしいビール」とも言われる。実はこのビール、近年のミャンマー情勢を象徴するものとなっている。

「ミャンマービール」は、日本のキリンホールディングスとミャンマーの企業による合同会社が販売してきたものだ。ところが、キリンホールディングスは1月、この事業からの撤退を完了したと発表。その背景には、“ミャンマーのクーデター”があった。実は、ミャンマー側の会社はミャンマー国軍の関連企業。クーデターを受けて、こうした会社との協業は人権上問題があるということで、撤退が決まった。

■市民の必死の抵抗も…国軍の弾圧続く

クーデター後、各地で繰り返し大規模なデモが起こり、国軍は武力行使で市民への弾圧を行った。こうしたなかでも、市民は抗議活動の手法を工夫しながら抵抗を続けていた。

そのひとつが「サイレント・ストライキ」と呼ばれるものだ。市民が出勤や外出を控えたり、店舗を休みにしたりすることで、街からは人影が消えた。デモ行進などを行えばすぐに治安部隊に見つかってしまうため、こういった無言の抵抗によって抗議の意思を示した。関連して、公務員が職務を放棄する「不服従運動」という動きもあった。

また、「フラッシュモブ」と呼ばれる抗議活動も頻繁に行われた。SNSでの呼びかけに応じた市民が通行人のふりをして集まり、合図が鳴ったらごく短時間デモ行進をして、治安部隊が来る前にさっと解散するというものだ。

しかし、こうした抗議活動でさえも国軍の徹底的な弾圧を受け、最近は市民の抗議のうねりも失速している。

現地の人権団体によると、クーデター以降、国軍の弾圧による死者は2600人を超えていて、110万人以上が住む家を追われ国内避難民となっている。

■久保田徹さんも解放…約6000人恩赦のワケ

クーデター前まで事実上の政権トップだったアウン・サン・スー・チー氏は、クーデター当日に拘束され、現在もその状態が続く。昨年末までに起訴された19の罪全てで有罪となり、刑期は33年にのぼる。控訴することもできるが、ミャンマーの司法は国軍の影響下にあるため、判決の見直しは難しいと見られている。

ミャンマー国内では抗議活動が難しくなっただけでなく、言論の自由も大きく制限されている。国軍の意に沿わない報道をしたメディアは免許を剥奪され、これまでに100人以上のジャーナリストが拘束されたと言われている。ミャンマー市民だけではなく、日本人のドキュメンタリー制作者・久保田徹さんも拘束され、去年11月に解放された。このときには、約6000人が恩赦で解放されている。

この恩赦はASEAN(=東南アジア諸国連合)首脳会議の直後に行われたというのがポイントだ。首脳会議でASEAN諸国は、昨年ミャンマーがASEAN諸国と結んだ「暴力の即時停止」などの合意事項を履行するよう強く求めた。こうした要求を受けて、合意を履行しているような形を見せるために大規模な恩赦が行われたというのが大勢の見方だ。事実、スーチーさんをはじめ多くの国民が今も拘束され続けている。

■ミャンマー軍事政権に接近する中露

市民への弾圧を続けるミャンマー軍事政権に対し、国際社会はどのように対応してきたのだろうか。欧米はクーデター後すぐに、国軍や関連企業への制裁を発動した。冒頭でふれたキリンホールディングスのように、ミャンマーに進出していた企業の多くは撤退し、国軍関連企業との取引を停止した。

ただ、国際社会全体としては一枚岩になれていない。国連安全保障理事会では、昨年末、クーデターから1年10か月が経って初めて、「ミャンマーでの暴力停止」や「スーチーさんらの解放」を求める決議を採択した。しかし、そこには「国軍への武器輸出禁止」や「国軍の責任追及」は盛り込まれなかった。交渉の過程で中国やロシアからの反発があったからだと見られている。

ミャンマーはクーデター後、中国やロシアとの関係を深めている。中国とは長年ミャンマー軍の後ろ盾として、経済面でも深い繋がりを保ってきた。ウクライナ情勢で孤立するロシアとは、欧米から共に制裁を受けているということもあり関係を強化している。

■ミャンマーに影響力持つ日本…果たすべき役割は

日本は、ミャンマーに強い影響力を持つと言われている。たとえば、ODA(=政府開発援助)を見ると、クーデター前の2019年度、日本はミャンマーに約1900億円を支援している。支援額を明らかにしていない中国をのぞき、最大の支援国と言われていた。

また、2019年に外務省が行ったミャンマーでの世論調査では、最も信頼できる国として日本をあげた人が61%にのぼった。同率2位の中国と韓国が9%なので、圧倒的な結果と言えよう。

その日本は、クーデターを受けてどのように対応しているのか。実は、日本は欧米諸国と異なり、ミャンマーに制裁を科していない。日本政府は国軍の中枢と対話できる関係を長年にわたり築いてきた。そのパイプをいかし、欧米諸国との橋渡しを担っていこうというのが日本政府の基本路線となっている。

ただ、日本政府とミャンマー国軍との関係には、世界からも批判が集まっている。たとえば、防衛省はミャンマー国軍から訓練生を受け入れている。国際的な批判を受けて新規の受け入れは禁止されたが、すでに受け入れた国軍関係者の訓練は今も続いている。また、クーデター後も続いているODAなどの経済援助も、国軍に利用されていると指摘する声もある。国軍との関係をしっかりと見直したうえで、独自のパイプをどういかしていくか。

ミャンマー情勢はウクライナ侵攻の影に隠れて目立たなくなってしまったが、いま一度日本がリーダーシップをとって考えていかなければいけない。
(2023年1月27日放送)

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