【不妊治療】無精子症の判明で“ドナーの精子”に希望も…不妊治療に壁「理由を誰も説明できない」
子どもがほしいと願って取り組む不妊治療。しかし、夫が無精子症などの理由で子どもを授かれない場合、他人の精子を使った不妊治療にはある「壁」がありました。その壁に直面した夫婦の思いと医療の現場を取材しました。
■夫の「無精子症」判明…ドナーからの精子提供に望み
「まさか自分がって感じ。自分のせいで子どもができない、奥さんに申し訳ない。そこが一番苦しかった」
不妊治療中の田中幸恵さん(仮名・30代)と夫の仁史さん(仮名・40代)。結婚後、そろそろ子どもを授かりたいと受けた検査で、仁史さんの「無精子症」が判明しました。
「無精子症」とは精液の中に精子が確認できない状態で、日本人男性には100人に1人の割合でいるとされています。
そこで田中さん夫婦は、夫婦とはつながりのないドナーから精子の提供を受ける不妊治療に望みをかけてきました。
──どんな治療を何回受けた?
田中幸恵さん(仮名)
「人工授精を34回くらい」
その間、2度の流産も経験。保険も利かず、4年間の治療費はおよそ400万円にのぼるといいます。
夫・仁史さん(仮名)
「お金とすれば痛いですけど、やめればそこで(子どもを)諦めるってことなので」
田中幸恵さん(仮名)
「今はここまで(の治療)しかできないという思いと、もどかしさと」
■“ドナーの精子”で「体外受精」は認められず「根拠は明らかになっていない」
実は“ドナーの精子”を使用した不妊治療は、女性の子宮に精子を注入する「人工授精」しか受けられず、より高度な治療である、卵子を取り出し受精させてから子宮に戻す「体外受精」は認められていないのです。妊娠率は30%ほど違いがあり、年齢を重ねるごとに低くなるといわれています。
なぜ“ドナーの精子”を使用する場合だけ体外受精が認められていないのでしょうか? 夫婦が治療を受けている『はらメディカルクリニック』の宮崎薫院長は、「何を根拠として言われたかというのが明らかにはなっていない」といいます。
“ドナーの精子”を使った不妊治療をめぐっては、2001年、国は法整備されるまで体外受精の自粛を求めていて、日本産科婦人科学会もその考えを尊重する立場をとっています。ところが20年以上たった今も法律はつくられず、ドナーの精子で行う不妊治療では、より妊娠率の高い体外受精が認められないままなのです。
宮崎薫院長
「提供精子を用いた体外受精はダメという理由を誰も説明できない中で、現場としては、患者様の精神的な限界、経済的な限界をひしひしと感じていた」
■学会の見解とは異なる“体外受精”治療に乗り出す「乗り越えたらきっといい結果が」
こうした現状を受け、『はらメディカルクリニック』では、これまでの治療回数や年齢など独自の基準を設けた上で、今年9月から、学会の見解とは異なるドナーの精子を用いた「体外受精」の治療に乗り出しました。田中さん夫婦は初回の治療の対象となり、初めて体外受精ができることに。
夫・仁史さん(仮名)
「ありがたかったですね。(治療開始が)遅れれば、どんどん年齢もあがってきちゃうので」
今年9月、幸恵さんは「体外受精」に向けて必要な排卵を促すホルモン注射を自宅でも打てるよう講習を受けていました。
田中幸恵さん(仮名)
「この治療(体外受精)を待ち望んでいたような感じなので、治療のつらさも大変ですけど、乗り越えたらきっといい結果が見えてくるかなって」
不妊治療の現場からは、「実態にあった制度を」との声が高まっています。
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