【解説】「国民年金」納付延長を検討も “現状”何歳で受給開始が一番お得?
厚生労働省の部会で年金制度改正の議論が始まりました。私たちがもらえる年金の受給額は、どのように変わるのでしょうか。
●64歳まで“延長”検討
●受給開始は何歳がお得?
●「プラス12年の法則」とは
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
■年金制度の改正検討 納付期間“5年延長”なら約100万円負担増?
今回、検討されていることの1つが、「保険料の納付期間」についてです。
「国民年金」は原則、全ての国民が将来的にもらえ、今年度は月額約6万5000円が受け取れます。満額を受給するためには、現在の制度では20歳から59歳までの40年間、保険料を払い続けなければいけません。厚労省の部会では、これをさらに5年延長し、64歳までの45年間にするか検討される見通しです。
そうなると、私たちが払う保険料の負担はどれくらい増えるのでしょうか。
国民年金の保険料は今年度だと月額1万6590円で、年間では約20万円です。これが5年分、増えることになり、単純計算で保険料の支払いは約100万円増えるということになるわけです。
負担額が増えることについて、街の人に聞きました。
管理栄養士(50代後半)
「もうすでに私はこの40年は(ほぼ)払い終わっているので、まだ先まで払うのかなって」
公務員(30代)
「払った金額はもらえるものではないと思うので、全然、義務だなと思って受け入れるしかないかな」
会社員(24)
「寿命も延びていっているから、納める期間が延びるのはいいと思うけど、コロコロ(制度が)変わってるじゃないですか。だから未来にあんまり期待をしていない」
■2040年に高齢者「約4000万人」推計 このままだと…
今、こうした検討が行われている背景には、「少子高齢化」があります。
国立社会保障・人口問題研究所による平成29年の推計では、2040年には高齢者の数が「約4000万人」、つまり「人口の35.3%に近づく」とされています。そこで政府は、増え続ける受給額を抑える策をとっていて、このままだと将来、国民年金の水準が今よりも3割弱下がる可能性があるわけです。
こうなることを防ぐため、今回、制度改正の検討が始められることになりました。
他にも検討されていることを確認します。年金には国民年金の他に、会社員や公務員などが入る「厚生年金」があります。この厚生年金は比較的、財政に余裕があるため、今回の部会では、厚生年金から財源の一部を国民年金にまわすことも検討されています。それにより、国民年金の受給額が維持されて、自営業の人だけでなく、会社員などの年金の水準を維持するメリットがあるといい、それが狙いになります。
高収入の一部の世帯は年金額が減ることになりますが、厚労省は“それ以外の人の今もらえるとされている年金額の水準を保つために、こうした検討をしている”と説明しています。
■年金受給額 開始年齢でどう変わる?
ここまでは“将来”の年金の話でしたが、ここからは“現状”の話に移ります。
国民年金は、受け取り開始の時期を60~75歳までの間で自由に選ぶことができますが、受け取れる年金の額は年齢により変わってきます。
「65歳の受給開始」を基準として、受け取りを70歳まで遅らせると受け取れる年金額は42%増え、75歳まで遅らせると84%増額されます。逆に、受け取り開始を60歳に早めると、受け取れる年金額は24%減額になります。
■何歳で受給開始がお得? 目安に「プラス12年の法則」
これらを踏まえた上で実際、何歳からもらい始めるのが一番“お得”なのでしょうか。
額は少ないけれど長くもらうか、多い額を短くもらうかという問題があります。その分かれ目は当然ながら、その人の「寿命」が大きく左右します。ただ、“自分が何歳まで生きるか”について、今の時点で誰にもわかりません。
そこで、社会保険労務士の増田豊さんが提唱しているのが、「プラス12年の法則」というものです。
例えば、「65歳から受給を開始し、年額100万円の年金を受給」との仮定を基準にします。受給開始を70歳に遅らせた場合は、65歳で受給開始した人の総額を追い抜くのは82歳になった時です。つまり、「受給開始の年齢から12年後に分かれ目が来ている」わけです。これが「プラス12年の法則」です。
さらに受給開始を75歳まで遅らせると、65歳受給開始の人の総額を上回るのは「プラス12年」の87歳ということで、“87歳以上生きないと65歳受給開始の総額に追いつけない”という計算になります。
ちなみに受給開始を早め60歳から受給した場合は、「プラス12年の法則」は当てはまらず、21年後の81歳を超えた時に65歳から受給した人よりも総額が「少なくなる」計算です。
年金をいつから受給するのがお得なのか、「プラス12年の法則」は1つの参考になりますが、その人の健康状態や家族構成、貯蓄額、さらには65歳以上の働き方などによって、実際には変わってきます。こうした試算を1つの目安として、自分の状況と照らし合わせて検討することが重要だということです。
◇
少子高齢化が進む日本の年金問題は、支える側と支えられる側の人口のアンバランスが根本的な原因です。少子化対策に加えて、働く人の賃金アップや働きたい女性や高齢者の労働環境の整備など、年金の原資となる財源を増やすための対策も、待ったなしで進める必要がありそうです。
(2022年10月26日放送「news every.」より)
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