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「トラベルドクター」諦めてた夢を現実に…“がん余命半年”89歳男性の600km旅に密着【Jの追跡】(2023年7月23日)
「最後にもう一度、妻との思い出の地へ」諦めていた夢が現実に…。「病気で旅行を諦めていた人の願いをかなえたい」若き医師が挑む「トラベルドクター」とは?
89歳のがん患者の願い「夫婦でお世話になった恩人に会いたい」。トラベルドクターとの旅を追跡しました。
■東京から青森へ「恩人に会いたい」
トラベルドクターに、新たな旅行の依頼が来ました。
トラベルドクター 伊藤玲哉さん(34):「こんにちは、トラベルドクターの伊藤です。体調はいかがですか?」
齋藤利郎さん(89):「良くない」
利郎さんは、83歳までとび職をしていましたが引退、大好きな釣りを楽しむ生活でした。しかし、3年前に大腸がんが見つかり、今年3月、「長くて余命半年」と告げられたといいます。
伊藤さん:「旅行に行きたい気持ちはどうですか?」
利郎さん:「最後のさ、旅行だと思って」
利郎さんが行きたい場所は、青森県。夫婦で度々訪れた時、親身になって世話をしてくれた恩人に会いに行きたいといいます。
利郎さん:「あの人もこれ(釣り)好きだからさ」
■トラベルドクターが語る人生の転機
トラベルドクターの伊藤さんは、千葉県にある病院で週に1度、非常勤の麻酔科医として勤務しています。
代々、医師の家庭で生まれ、大学も医学部を卒業。実家の病院を継ぐことも考えていましたが、研修医の時、人生の転機となる出来事がありました。
伊藤さん:「自分が担当した患者さんから、『先生、旅行に行きたいんだけど』と言われて」
しかし、その患者は旅行に行けないまま亡くなりました。
伊藤さん:「自分は今この人の病気を治すことはできないけど、この人の願いなら、かなえることはできるんじゃないかと」
そこで伊藤さんは、介護士の資格も取得。旅行業務や旅の思い出を残すため写真や動画編集も学び、3年前にトラベルドクターの会社を設立。旅行に使う特別な福祉車両も導入しました。
「娘の結婚式に参加したい」というがん患者の男性や、「もう一度、海で泳ぎたい」という難病の女性など、これまで100人以上の「病気で諦めていた旅行」を実現してきました。
伊藤さん:「病院を飛び出して、旅行を通じてできる医療を目指していきたい」
■“諦めていた夢をかなえる”600kmの旅
出発の2日前、伊藤さんは、この旅行で使う福祉車両で事前に青森へ。寝たきりの利郎さんが駅のホームを移動できるかなど、動線の調査をしていました。
伊藤さん:「(一般の)エレベーターはストレッチャーでは入れないサイズですね」
移動手段、宿泊先の手配なども、すべて伊藤さんが行います。さらに、主治医や現地の医療機関とも連携。交通機関や宿泊施設にも協力を依頼。こうした事前の準備が重要だといいます。
旅行には、看護師と食事や入浴などの介助を行う理学療法士も同行します。
伊藤さん:「目安は朝昼晩、寝る前、旅行の進行具合で、こまめに(体温を)測る意識でいて」
そして、出発当日。
看護師:「齋藤さん行ってらっしゃい。お土産話、聞かせてくださいね」
利郎さん:「頑張って行ってくる」
今回の旅行を依頼したのは、娘のさとみさん(59)です。
さとみさん:「(余命告げられ)青森に行きたいと言っていたが、絶対にそれは無理だなと思っていた」
とび職の仕事を続け、子ども2人を育ててくれた父の願い。そんな中、トラベルドクターの存在を知りました。
さとみさん:「(父の)夢がかなって、すごくうれしいです」
600キロも離れた青森まで“諦めていた夢をかなえる旅”が始まります。
東京駅までは、手配した介護タクシーで移動。新幹線では、身体が不自由な人などが優先して利用できる多目的室を予約しました。
出発前は「食欲がない」と言っていた利郎さんですが、久しぶりの旅行で元気が出てきたのか、箸が止まりません。
3時間後、新青森駅に到着しました。
伊藤さん:「新幹線に乗って、はるばる青森まで来ましたね」
利郎さん:「大したもんだよ」
■“特注の福祉車両”医師自ら運転し目的地へ
ここからは、伊藤さんが特注した「トラベルドクターカー」で移動。クラウドファンディングを活用し、およそ1000万円もかけた、特注の福祉車両です。
伊藤さん:「寝たきりの人や車いすの人でも快適に過ごせるように広く設計しています」
さらに、バイタルモニターや吸引機などの医療機器を常備、医療搬送にも対応が可能です。
そして、最もこだわったのが車窓です。
伊藤さん:「ストレッチャーの高さの調整や物を置かないことで、移動中少しでも(外の景色を)楽しんでいただけるよう工夫しました」
実は伊藤さん、自分でこの車両を運転するために普通二種免許を取得しました。
■恩人と4年ぶりの再会「来れて良かった」
病院を出ておよそ7時間。ついに、目的地に到着。夫婦にとって13年来の恩人との再会です。
恩人 齋藤衛さん(67):「おっ!しばらく。いやあ、これで来たのか!」
4年ぶりの再会に、感極まる利郎さん。
衛さん:「久しぶりだな」「まあ入れよ」
ここ青森は現在、認知症で施設に入っている妻と4年前まで頻繁に訪れていた場所でした。その時、親身になって世話をしてくれたのが衛さんです。
衛さん:「よく来たな、ほんとにな」
衛さんが隣に座ると、利郎さんは思いが込み上げます。2人は釣り仲間でした。
衛さん:「イワナを釣りに渓流を歩くんですよ。川が深いところは私がおんぶして対岸に渡って」
利郎さん:「この間釣ったら、こんなでけぇの」
衛さん:「ありゃでかかったな。50センチくらいあったな」
恩人との再会に、話が止まらない利郎さん。その間も、常に利郎さんに寄り添う医療チーム。
看護師:「お食事の前にお薬飲んじゃいましょうか」
会話と夕食を満喫して、あっという間に2時間が経っていました。
利郎さん:「来られて良かった。来られねえと思ってた」
衛さん:「頑張れよ。よくなったら、またハゼ釣りに来い。迎えに行くから」
伊藤さん:「本当にいろんな表情が見られた。何とか無事に、1つ願いをかなえられて良かった」
■2日目は夫婦思い出の地「大間」へ
2日目。まずは体調をチェック。すると突然、利郎さんが…。
利郎さん:「マグロが食べられるかなあ」
さとみさん:「じゃあ大間ですね」
実は、大間は夫婦の思い出の地でもあるといいます。医師の伊藤さんも体調に問題ないと判断。
伊藤さん:「じゃあ大間行きましょう!本州最北端」
大間までは車で3時間半。往復7時間にも及ぶ長旅。体調に変化はないか、常に気は抜けません。
理学療法士:「利郎さん、しんどくないですか?」
そして、大間の「安くてうまい」と評判のお店に到着しました。
理学療法士:「お体の位置を直そうかなと」
注文したのは、人気メニューの3色マグロ刺身定食です。
利郎さん:「刺し身が締まってるね」
さとみさん:「おいしい?じゃあ次、大トロ」「全然きのうと食べ方が違う」
食事の後は、妻の美智子さんがお気に入りで、夫婦で度々訪れたという思い出の地・大間崎へ。
さとみさん:「来て良かったね」「まさかここまで来られるとは思っていなかった。ほんとお父さん良かったよね」
利郎さん:「良かった。良かったなあ」
諦めていた旅行をかなえた利郎さん。
利郎さん:「これで東京に帰ります!よろしくお願いしまーす!」
伊藤さん:「3日間の旅はどうでしたか?」
利郎さん:「皆にお世話になってよかった」
笑顔で東京へと帰っていきました。
■娘から父へ…「念願かなったね」
その3週間後、利郎さんの通夜が営まれました。
さとみさん:「あのタイミングが良かったし、行けなかったらすごく後悔していたと思う。念願かなったねって言いたい」
今回の青森の旅行を終え、トラベルドクターの伊藤さんは…。
伊藤さん:「同じ思いをしている人はたくさんいると思うし、1人でも多く(願いを)かなえていけるように、これから人生をかけて頑張っていきたい」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp/a>
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