「共謀も実行もしていない」難病ALS嘱託殺人事件の初公判で元医師が起訴内容を否認
難病のALSを患う女性の依頼を受け、薬物で殺害したなどとして、逮捕・起訴された元医師の裁判が29日始まり、元医師は起訴内容を否認し、全面的に争う姿勢を示しました。
「(現場に)一緒にいたことは間違いありませんが、共謀はしていませんし、もちろん実行もしていません」(被告)ー。午後2時過ぎから京都地裁で初公判が開かれたのは、嘱託殺人などの罪に問われている元医師の山本直樹被告(45)の裁判です。
起訴状などによりますと、山本被告は2019年、実行犯とみられる知人の医師、大久保愉一被告(45)と共に、全身の筋肉が衰える難病・ALSを患う林優里さん(当時51)から依頼を受けて、薬物を投与し殺害したなどとされています。
寝たきりの状態だった林さんは、自ら死を望む思いをSNSで発信していました。
林さん「ひとときも耐えられない。安楽死させてください」
その後、SNSで段取りを打ち合わせていた林さんと大久保被告。事件前には、山本被告の口座に報酬とみられる130万円が振り込まれました。
事件当日、山本被告らは友人を装って林さんの自宅(京都市中京区)を訪れて薬物を投与し、訪問からわずか16分で部屋を後にしたとされています。
そして、この日の初公判。検察側は「寝室で林さんに薬物を投与したのは大久保被告だが、寝室のドアに立ちふさがり、別の部屋にいたヘルパーが中に入れないようにした」と指摘。
一方、山本被告側は、林さんの自宅にいたことは認めたうえで「林さんを殺害したのは大久保被告で、ヘルパーを入れないようにした事実もない」などと無罪を主張しました。
裁判を傍聴した林さんの父は初公判の後、複雑な胸の内を明らかにしました。
亡くなった林さんの父「声はほとんど聴いてなかった。顔だけみていた。そんな風なことをする人間には見えなかったけど」
<京都地裁前から坂梨俊記者がリポート>
初公判で山本被告は落ち着いた様子で法廷に現れました。しかし、起訴状を読み上げられた際には、毅然とした態度で「共謀はしておらず、大久保被告の単独による犯行だ」と話し、全面的に争う姿勢を見せました。
(Q:今後、裁判の争点は)
山本被告が殺害計画を事前に知っていて、実行犯とみられる大久保被告との共謀があったかどうかです。
裁判で弁護側は、山本被告が殺害計画を知らされたのは、林さんの家を出た後だと主張しています。密室で直接的な証拠が乏しい中、検察側はメールのやりとりなどから、山本被告が事前に計画を認識していたかどうか、立証していくものとみられます。
林さんは生前SNSで生きることへの希望も発信していました。また、実行犯とみられる大久保被告についての裁判の日程はめどが立っておらず、真相究明には時間がかかりそうです。
【安楽死を望む被害者にSNSで接触】
林さんはツイッターで、『安楽死させてください』と投稿していて、大久保被告とみられる人物が接触していました。
(大久保被告のメッセージ)
「訴追されないなら、お手伝いしたいのですが」
(林さんのメッセージ)
「『お手伝いしたいのですが』という言葉が嬉しくて泣けてきました」
事件当日、大久保被告らは偽名を使って、京都市中京区にある林さんの自宅を訪れ薬物を投与し、訪問からわずか16分で部屋を後にしたとされています。
捜査当局は、林さんの死期が迫っておらず、大久保被告らが主治医でないことなどから、“安楽死ではない”という認識を示しています。
【遺族は複雑な心境】
山本被告らが逮捕された際、林さんの父親は複雑な胸のうちを明かしました。
(亡くなった林優里さんの父親)
「2つの気持ちが同時進行しているのは、複雑な気持ちですね。くそったれと言ってね。犯人側に対する気持ちと優里の納得した気持ちと両方が同時に私の心の中では、進んでいますので」
29日の裁判では、山本被告が罪状認否を行い、その後、検察側と弁護側が冒頭陳述を行う予定です。
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