【みんなが家族】北大東島の子供たち 中学を卒業し島を離れる少女に大人たちは──『バンキシャ!』

【みんなが家族】北大東島の子供たち  中学を卒業し島を離れる少女に大人たちは──『バンキシャ!』

【みんなが家族】北大東島の子供たち 中学を卒業し島を離れる少女に大人たちは──『バンキシャ!』

この春、6人いた中学3年生全員が進学のため島を離れた沖縄県の北大東島。島民みんなの前で親と相撲や腕相撲をとり、ここまで育ててくれた感謝を伝えるのが風習です。そして、旅立つ子供たちに大人たちがしてあげられること、そこには島ならではの取り組みがありました。(真相報道バンキシャ!)
沖縄県の離島・北大東島。この日、島の人々が集まるイベントがありました。神社のお祭りで行われる奉納相撲です。まだ、小さい子供たちから、小学生、さらに、大人の選手による迫力の相撲が繰り広げられます。

そして、最後を飾るのが6人の中学3年生。対戦するのは親たちです。島には高校がなく、進学のため全員が、この春、親元を離れます。

旅立ちを前に、角力(すもう)と腕相撲で、ここまで育ててくれた親と勝負します。子どもたちは、相撲の前に決意表明をします。

内嶺サラさん(15)
「ついにこの日がやってきてしまいましたね。お母さんは仕事に家事にどれだけ忙しく大変でも、弱音をはかず、わたしたちの一番の味方でいてくれました。ありがとう。腕相撲を通して15年の成長を感じてほしいです」

生徒会長も務める内嶺サラさんは、母親のアヤノさんを前にこう力強く挨拶をしました。アヤノさんの目は涙に光っているようにも見えました。そして2人が椅子に座り、テーブルの上で手を組むと──。

「スタート!」

腕相撲が始まりました。サラさんは腰を浮かして机の角をつかみ、アヤノさんの手をグッと引き寄せます。ところがアヤノさんの顔には余裕の笑み。次第に組んだその手を引き戻していきます。たくさんの島の人たちが身を乗り出して2人の勝負を見つめます。そして、サラさんの敗戦が濃厚になってくると、サラさんは思わず笑って叫びました。

サラさん
「おかーさーん! おか~さぁああん!!」

見守る島の人たちからドッと笑いが起きます。そしてサラさんが力尽きてくると、最後はアヤノさんが母親の貫禄を見せつけ、一気に勝負あり。会場は歓声と拍手に包まれました。

サラさんの母親・内嶺アヤノさん

「手からも感じたんですけど、成長したなあって思いました」

島を出て新しい一歩を踏み出す子供たち。親子相撲が盛り上がるのは、島の人みんなで子供たちの成長を見守ってきたからです。

サラさん

「島のみんなが仲良しで、本当にみんなが家族みたいで…ていうのは、正直、ほかのところではないのかなって思う」

      ◇

沖縄本島から東におよそ360キロのところに北大東島はあります。人口はおよそ500人で、主な産業はサトウキビなどの農業。さらに、漁場が豊かで漁業も盛んです。そんな穏やかな島には、以前、ある問題がありました。

北大東村・仲嶺仁介教育長
「学校から帰ってくることを親は待っているんですね、一労働者として。学習、宿題、予習などできるわけがない。そういう状況が続いている中で、成績が沖縄県でも悪いということを、大人が気づき始めた」

──どれくらい悪かったんですか?

北大東村・仲嶺仁介教育長
「最下位です。ワーストワンです」

30年ほど前まで北大東島の学力は全国最低レベル。その学力の低下は、子どもを大切な労働力として考えていたためでした。高校に進学してもついていけず、中退してしまう子もいました。

いま、島の教育はどうなっているのでしょうか? 島で唯一の学校「村立北大東小中学校」へ行ってみることにしました。そこでは校長先生が毎朝、子供たちを出迎えていました。在校生は、小学生39人、中学生は各学年6人の18人です(*2022年度)。そこには、受験を控えたサラさんもいました。

サラさん
「自分は行きたい高校がはっきり決まっているので、そこの高校に向けて勉強を頑張るのと、ちゃんと今まで自分が頑張ってきたことをアピールできるように準備していけたらなと思います」

島では子どもたちのために、ある取り組みが行われていました。放課後を取材させてもらうと、暗くなってからサラさんは準備をして家を出ました。

──今からどこに?
サラさん
「今から塾です。勉強タイムです」

中学3年生が6人の島、そこに村営の塾がありました。行われていたのは、オンライン授業です。講師は、現役の東大生。島では、放課後の学習を東京の塾に委託しているのです。この日は、まず漢字の勉強から。

サラさん
「先生、覚悟の悟ってっどんなですか? ヒントください、イメージ、イメージ!」

中3の授業は午後7時半から9時まで。1コマ1時間半の授業が週3回あります。サラさんは、小学3年生の頃からここに通っています。希望する子どもたちは、7年間も無料で東大生に勉強を教えてもらえるのです。

サラさん
「分かるまで教えてくれるので、知識もついて、学力は少しずつですけど上がってるんじゃないかなと感じます」

サラさんたちとオンラインでつながっているのが、オンライン教育に力を入れる東京の学習塾「東大NETアカデミー」です。講師は全員東大生。熱のこもった授業の声が聞こえてきます。

この日、数学を教えていたのは、東大大学院1年生の高瀬海斗さん。大きな画面にはサラさんたちが映っています。画面越しに活発なやりとりが行われます。島の子供たちはノートに描いた図形をカメラに寄せて、東京の高瀬さんに見せ、質問をします。授業は活気にあふれていました。

そして、授業の合間には画面越しにこんな交流も。

高瀬さん
「結婚とかしたらさ、奥さんをぜひ連れて行きたいもん、北大東」

中学生
「デートするとこもない所にですか?」

高瀬さん
「デートスポットおさえといて、先生のために」

中学生
「畑?」

高瀬さん
「畑ってなんだよ!」

地方の教育格差をなんとかしたいとこの塾をたちあげたのが、自身も沖縄出身で東大卒の松川來仁さん。

東大NETアカデミー・松川來仁社長
「沖縄県が日本で一番学力が低いというのがあったので、そこは小さな頃から大人になっても悔しい思いがあって、離島の話を聞いたら学習塾などもちろんない。そういうところを知って、オンラインだったら授業ができるんじゃないかと。そういう思いで、この授業(塾)を始めました」

10年前から始まったオンライン授業。開始から4年で島の子どもたちの学力は全国平均を超えました。
      ◇

夜、サラさんのお家を訪ねました。今日の夕食は、知り合いの漁師さんからもらった魚の煮付け。2人の食卓には笑顔が絶えません。

サラさんのお母さんはオンライン塾などの島の取り組みについて、どう思っているのでしょう。

サラさんの母親・内嶺アヤノさん
「やっぱり小さいところ(北大東尾島)から大きいところに行くと、負けてしまったりとか、落ち込む人が多かった気がするんですけど、東大の学生さんとお勉強することで、強くなったと思います。メンタル的な。今の子は堂々としていてそんなに動じない。ちっちゃい島から来たと感じさせない」

島が教育に力をそそいだことで、子どもたちの意識も変わってきたといいます。

      ◇

そして3月。卒業式の日──。
式典を前に卒業生たちが集まって、生徒会長を務めてきたサラさんが話します。

サラさん
「ラスト、島のみなさんにも、家族にも、いい姿を見せましょう。がんばるぞー!」

一同

「おー!」

そして始まった卒業式。

校長
「卒業証書、内嶺サラ」

サラさんは、「ありがとうございます」と言って卒業証書を受け取り、一礼をして壇上を後にしました。春からは、志望していた沖縄本島の高校で、寮生活を始めます。

そして、卒業式も終わりが近づき、卒業生から両親へ感謝の言葉が贈られます。壇上に両親とともに上がった時、もう、サラさんの目からは涙があふれていました。

サラさん
「お父さん、お母さんへ。ついに私にも卒業の日が来てしまいましたね」

母親のアヤノさんの目にも涙がいっぱいです。

サラさん
「お母さん、忙しいのに、毎日、お仕事も家事もありがとう。私にとってお母さんは心の支えでした。私はお母さんから小さい頃の話や、家族の思い出話を聞き、笑い合っていたあの時間がすごく好きでした。これから離ればなれになってさみしいけど、島にいい報告ができるよう高校生活も全力でがんばります。これからもずっと大好きです。サラより」

アヤノさんは涙をこぼすと、サラさんをしっかりと抱きしめました。

会場の外には、卒業生の親戚だけでなく、多くの島の人が駆けつけていました。門出をみんなで祝うのが島の卒業式です。贈られるのは駄菓子でできた帽子やくび飾り。にぎやかに卒業生を送り出します。

サラさん
「ありがとうございます! やったー!」

      ◇

そして卒業式のあとには、島独特のある習慣がありました。サラさんが自宅にいると、島の人が次々と訪れ、お祝いを言ってご祝儀を手渡していきます。

島の人「おめでとう」

サラさん「ありがとうございます」

島の人「頑張ってな」

サラさん「頑張ります!」

金額は一律2000円。100人ほどから受け取り、集まる額はおよそ20万円になるそうです。新しい生活にはお金がかかることを知っている島の人たち。みんなで旅立ちを支えます。

「乾杯!」

そして、親しい人たちだけが集まり、それぞれの家で宴会が始まりました。サラさんの家にはおじいちゃんも来てくれましたが、この方、島の村長です。

北大東村・宮城光正村長
「これから大変だと思うんですよ。15の歳で親元を離れて、島を離れてね。学校の標語の『島に誇りを 心に夢を』の思いをどこかに持って、壁を乗り越えてもらいたい」

サラさんの同級生・長濱カーヤさん
「学校帰りとか、『おかえり』って言ってくれる。なんかもう島全体が家みたい」

サラさんの同級生・仲村サーヤさん
「友達からの愛もあって、島の方からの愛もあって、先生方からの愛もあって、支えられてきたから、いま自分がこうやって15の春を迎えることができた」

サラさん
「今は、先輩方がこの島をつくっていってくれている。だから今度は自分たちがちゃんと高校で学んで、そこで島に貢献できるものを手に入れて、最終的には帰ってきたい。それがいつになるかは分からないけど、ここにね、また戻ってきて過ごせたらなとは思いますよね」
(2023年4月30日放送「真相報道バンキシャ! 」より)

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