【解説】男性の育児休暇 取得率向上へ様々な取り組み『知りたいッ!』
日本の出生数が過去最少となり、待ったなしの少子化対策。男性による育児休業の取得率をどう向上させるかが注目されています。
◇孫育て モヤモヤも?
◇男性育休100%の中小企業
◇同僚に10万円
以上の3点について詳しくお伝えします。
■孫育てで不満? 「大王製紙」では育休取得率が大きく跳ね上がる
まずは、子育てを巡る興味深いデータを見ていきます。共働き家庭が増える中、乳幼児の子育てをおばあちゃんの手助けのおかげで、日々の生活を乗り切れているという家庭が多いそうです。
去年発表された社会保障人口問題基本調査では、第1子が3歳になるまでに祖母から手助けを受けたという母親は、約6割にのぼります。
一方で、おばあちゃんの側からはこんな本音も聞こえてきます。「主婦の友社」が2020年1月に行った「孫育てに関する意識調査」では、孫育て中の女性の52%が、モヤモヤと不満などを抱くことがあると回答しています。
どういう時にモヤモヤするかというと、「体調が良くない時」などのほかに、「『自分の時間』を犠牲にしていると感じる時」といった声も結構ありました。
日本の少子化や労働問題などを研究しているハーバード大学のブリントン教授は、「女性が子育てで自分の母親などを頼らないといけない背景には、育児休業を取れない夫を頼ることができないという実態がある」と指摘しています。
実際、厚生労働省が発表した2021年度の男性の育休取得率は、13.97%でした。政府の目標は「2025年までに30%」なので、まだまだ開きがあります。一方で、15日に発表された、男性育休を推進する企業141社への2022年度の調査では、平均で取得率76.9%と、前年度より約17ポイントも増えました。
中でも、男性の育休取得率が大幅に伸びたのが「大王製紙」です。2020年度に6.3%だった取得率が、2022年度は93%まで大きく跳ね上がっています。どうしてこんなに増えたのか、取材してきました。
3人のお子さんの父親・北井圭祐さんは、6年前と去年の2回育休を取得しました。6年前と比較して、社内では男性育休への取り組みに大きな変化がありました。
大王製紙 育休を2回取得した北井圭祐さん
「1回目の時は、自分で育休について調べなきゃいけなかったんですけど、1冊にまとめてもらっているので、これを見れば全てがわかるから非常に助かりました」
取り組みの1つが、配偶者が出産予定の社員に配布されるようになった通称“パパ読本”です。育休取得までの流れや体験談などがまとまっています。大王製紙では、男性育休の必要性について管理職への研修を必須としています。
大王製紙 育休を2回取得した北井圭祐さん
「(1回目取得した当時は)『もの珍しい』と意見を言うような方はいました。2回目は協力してくれる人が多かった」
■男性の育休取得率が100% 産まれた子どもの数が4.5倍に
中小企業では難しいと思われがちですが、しっかり力を入れているところもあります。
屋根の金具を製造する「サカタ製作所」は、約160人の従業員がいます。2018年から5年連続で男性の育休取得率が100%を達成しています。企業のトップである社長自らが、男性育休を積極的に取るよう呼びかけていて、仕事をペアで進めるなど、誰が休んでも仕事が滞らない体制にし、無駄な業務を見直して残業ゼロにするなど、働き方改革も進めたそうです。こうした取り組みによって、従業員の家庭で産まれた子どもの数は、取り組み前の2015年と比べて4.5倍に増えたそうです。
■男性の家事・育児で第2子以降の出産率に大きな差
男性の育休取得がなぜ大事なのか。もし育休を女性だけが取ると、子育てがワンオペになってしまいます。これによって女性が育児に疲れや不安を感じ、産後うつにつながりかねないという指摘もあります。
また、こんなデータもあります。夫が休日に6時間以上、家事・育児をする家庭では、87.1%が第2子以降を産んでいます。(家事・育児を夫がしない場合は10%)全くしないよりも、夫の家事育児参加率が高い方が、次の出産につながりやすいということが、データからも見て取れます。
ブリントン教授は、「日本はこれまで少子化や、仕事と家庭の両立を女性の問題だととらえてきたが、今後は北欧のように、男女ともに仕事と家庭を両立する政策が必要だ」と話しています。
■育休取得者の“同僚に”10万円支給
ほかにも育休を取る本人ではなく、周りの人を支援する取り組みも広がってきています。三井住友海上火災保険は、今年7月から育休を取得した社員の同僚に対して、最大10万円を支給しています。育休を気持ちよく取りやすい環境にしようということです。また、ソフトウェア開発会社のサイボウズは、産休・育休制度だけでなく、全社員を対象に「働き方宣言制度」を導入しました。育児に限らず、介護や副業など個人の事情に応じて勤務時間や場所を決められるという制度です。
◇
そもそも、多くの企業で長時間労働がなかなか是正されないこと自体にも根本的な問題があると感じます。休暇の取得は女性、男性、子どもを産む、産まないにかかわらず、全ての労働者の当たり前の権利です。休むと周りに迷惑がかかるといった固定観念から脱却し、“休むことが当たり前”の企業風土に変えていくことが求められていると思います。
(2023年3月16日放送「news every.」より)
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