【解説】新たな「国家安保戦略」等が閣議決定 日本の防衛はどう変わる?
政府は、今後10年間の日本の外交・安全保障の基本方針を示した「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を閣議決定。戦後、政府が一貫して「持たない」と判断してきた「反撃能力」を持つことになり、日本の安全保障政策の大きな転換点に。どう変わるのか、政治部・増田理紗記者が解説する。
■安全保障関連3文書とは?
16日、政府が閣議決定した安全保障関連3文書。日本の安全保障戦略の「転換点」とも言われるが、具体的にどういうものなのか。
1つ目は今後10年間の日本の外交・防衛の基本方針を示した「国家安全保障戦略」。
2つ目は「防衛目標」を実現するための方法と手段を示した「国家防衛戦略」。
そして3つ目が防衛費の総額やどういった装備品を整備するかを定めた「防衛力整備計画」だ。
■中国動向「最大の戦略的な挑戦」
「国家安保戦略」では、安全保障上の「課題となる国」として中国、北朝鮮、ロシアをあげており、中国の軍事行動については、「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」と指摘。「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけている。
ひとつ前の国家安保戦略では「我が国を含む国際社会の“懸念事項”」と位置づけており、より強い表現が用いられた形だ。
中国は台湾統一のため武力行使の可能性を否定しない考えを示しており、今年8月には軍事演習で発射した弾道ミサイルのうち5発が日本のEEZ=排他的経済水域内に着弾している。
■ミサイル攻撃は「現実の脅威」
北朝鮮の脅威もある。北朝鮮は今年に入り30回以上とかつてない高い頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返している。
実際に「国家防衛戦略」には、「日本へのミサイル攻撃が『現実の脅威』となっている」、「既存のミサイル防衛だけでは完全に対応することは難しくなりつつある」との認識が示されているのだ。
■「反撃能力」保有 戦後日本の安保政策の転換点
今回、「国家防衛戦略」に「反撃能力の保有」が明記された。これこそが「戦後の安全保障政策の転換点」といわれるポイントだ。
弾道ミサイルへの対処は日本はこれまで、「飛んで来たら迎撃する」という方法に限られていた。ただ相手のミサイル技術が向上していることなどから政府はこれだけでは不十分で、「反撃能力」がないと日本を守れないとみている。
「反撃能力」を保有することで、今後は攻撃を防ぐのにやむをえない場合には、陸、海、空から日本を攻撃しようとする相手のミサイル発射拠点などを破壊することが可能になる。政府はこれまで「反撃能力」については戦後一貫して「持たない」と判断してきたので大きな転換となる。
戦後一貫してとってきた「専守防衛」の考え方に反するのではないかという指摘もあるが、政府は「必要最小限度の自衛の措置」と定義し専守防衛の考え方に変わりがないと強調している。
政府は反撃能力を持つことで、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」になると期待している。
■「反撃能力」具体的な手段は?
政府は「反撃能力」の手段として「スタンド・オフ・ミサイル」などを活用するとしている。「スタンド・オフ」とは“離れている”という意味があり、「スタンド・オフ・ミサイル」は敵の射程圏外から攻撃できるミサイルのことを指す。
その1つとしてあげられているのが、能力を大幅に向上させた「12式地対艦誘導弾」だ。現在の射程は百数十キロ程度だが、防衛省関係者は将来的に1000キロ以上に伸ばすと話していて、配備される場所によっては北朝鮮や中国の沿岸部を射程に収められることになる。
■「スタンド・オフ・ミサイル」いつ配備?
能力向上型の「12式地対艦誘導弾」のうち地上発射型のものは、2026年度には部隊に配備したいとしているが、増産体制が整うまで作れる数が限られることから、「防衛力整備計画」にはアメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」を導入することなどが盛り込まれている。
■防衛力強化 かかる費用は?
政府は来年度から5年間の防衛費を43兆円にするとしていて、これは現在のおよそ1.5倍を超える。「防衛力整備計画」にはその内訳も示されていて、「スタンド・オフ防衛能力」には5年間で約5兆円の経費をあてる。
このほか、航空機や船舶などの維持・整備にかかる費用として約9兆円を充てるとしている。
(2022年12月16日放送)
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