【イチから解説】世界のエネルギー供給に影響? 開発計画が相次ぐ『次世代原子炉』とは…
日本の原子力政策が転換点を迎える中、これまでの原発に比べて安全性や経済性が高いとされる「次世代原子炉」が注目されています。次世代炉にはどんな特徴があり、世界で関心が高まる背景には何があるのでしょうか。読売新聞科学部の船越翔記者が解説します。
■原子力政策の転換点
2011年の東京電力福島第一原発事故の後、政府は原発の新設や増設に関しては踏み込んだ議論を避けてきました。こうした中、今年8月、岸田首相が「次世代原子炉」の開発・建設を検討し、年末までに結論を出す考えを表明しました。エネルギーの安定的な供給確保を目指し、政府が原発の活用にかじを切る姿勢を示したものと言えます。
■軽水炉と異なる特徴を持つ次世代炉
岸田首相が言及した、次世代原子炉とはどのようなものでしょうか。そもそも、今の日本に普及している原子炉は「軽水炉」とよばれ、炉内の核燃料の熱で水を沸騰させ、蒸気でタービンを回して発電する仕組みです。
これに対し、次世代炉はいくつかのタイプがあります。
「革新軽水炉」は現状の軽水炉をベースに、安全技術を強化したもので、深刻な事故時に溶け出した炉心を受け止めて冷やす特殊な装置などを備えます。
「小型モジュール炉」(SMR)は、小型化した原子炉を複数連結して出力を調整します。原子炉を工場などで一括して生産することでコスト削減を図れるほか、連結する原子炉の数によってさまざまな容量の原発をつくることができます。規模が小さい原発は離島などのへき地での運用が想定されています。
高速の中性子を利用した「高速炉」は、効率よく核燃料を燃やすことができ、強い放射線を出す放射性廃棄物の量を減らすことができます。
「高温ガス炉」は核燃料の熱を取り出すのに、水ではなくヘリウムガスを使います。発電だけでなく、炉心から得られる高い熱を使って新エネルギーである水素の製造もできます。
■関心を集める三つの背景
さらに、次世代原子炉が注目されるのは、三つの背景があります。
一つ目は、「脱炭素社会の実現」への機運の高まりです。原子力発電は発電時に二酸化炭素を出しません。地球温暖化問題を受けて、クリーンな発電を求める声が強まっています。
また、「国際的な流れ」も大きなポイントです。欧米や米中など、世界で次世代炉の研究開発が本格化する中で、日本だけがこの流れに乗り遅れるわけにはいかないという事情があります。
ロシアによるウクライナ侵略も影響しています。侵略が始まってから、資源の価格が高騰し、発電コストが高まっています。原発のような安定的な発電の重要性が増している現状があります。
■「国内」と「海外」で進める日本の次世代炉開発
米国や英国、中国などが、小型モジュール炉や高速炉、高温ガス炉などの運転を今後10年以内に始める計画を相次いで打ち出す一方、日本ではまだ次世代炉の建設の見通しはたっていません。
こうした中でも、三菱重工業は「革新軽水炉」の開発を進め、基本設計の8割が完了したと説明しています。IHIも小型モジュール炉を開発する米ニュースケール社に投資し、機器の受注を狙っています。
日本原子力研究開発機構(JAEA)や三菱重工業は今年1月、米国の原子力企業テラパワー社と高速の開発での連携に合意しました。さらにJAEAは今年9月、英国の高温ガス炉の開発計画への参加が決まりました。海外の計画に参入することで、人材育成や知見の獲得を進め、将来的な国内建設に弾みをつけたい考えです。
ただ、国内建設を巡っては、まだ高いハードルがあります。
次世代炉に関する規制はまだなく、安全審査のための基準や指針をどう定めるかは決まっていません。原子炉で核燃料を燃やした後に出る使用済み核燃料、いわゆる「核のゴミ」をどう処分するかも大きな問題です。
また、そもそも原子力政策は賛否の割れるテーマです。国民や自治体のどうやって理解を得ていくかも難しい課題で、透明性を確保しながら議論していかなければなりません。
■世界の流れを見極めよ
次世代炉を巡る競争は今後も激しくなることが予想されます。独自の技術を持つ日本が存在感を発揮できるのか、それとも遅れをとっていくのか。エネルギーは我々の暮らしに直結する問題なだけに、世界の流れをしっかり見ていくことが必要です。
(2022年11月11日放送)
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