【解説】多額の献金…行き先は? “統一教会”巧妙なカネの集め方と使い道
安倍元首相の銃撃事件から、15日で1週間がたちました。容疑者の母親が多額の献金をしていた宗教団体は、信者らから集めたカネをどこでどのように使っていたのか。そのカネの流れも少しずつ見えてきました。
◇母親「原因は自分」
◇“献金”の行き先
◇世界の政治家も
以上の3つのポイントについて、詳しく解説します。
◇
■母親「息子が事件を起こして申し訳ない」 教団は批判せず
山上徹也容疑者(41)が長年恨みを抱いていたのが、母親がのめりこんでいた宗教団体「世界平和統一家庭連合」、いわゆる“統一教会”です。
捜査関係者によると、その母親は警察の聴取で、「息子が事件を起こして申し訳ない」と話しているそうです。ただ、教団については、批判はしてないとのことでした。
また、事件直後に山上容疑者の母親と連絡をとったという教団の信者によると、母親は「安倍さんや家族、SPの方にも申し訳ない」と、涙ながらに話していたそうです。そして、「原因を作ったのは自分であって、申し訳ない」と、かなり落ち込んでいる様子だったといいます。
■献金総額は約1億円 原資は容疑者父の保険金や祖父の不動産か
山上容疑者の母親は、教団に約1億円の献金をしていたことがわかっているが、山上容疑者の伯父がNNNの取材に応じ、献金の実態や一部が返金された経緯などを明らかにしました。
伯父によると、母親が入会と同時に2000万円、そのすぐ後に3000万円、さらに約3年後に1000万円と、合わせて6000万円を献金していました。これは、亡くなった山上容疑者の父親の保険金が原資となっていたということです。そのほか、容疑者の祖父から相続した会社の土地や自宅など、不動産から4000万円を献金し、その総額は1億円にのぼるということです。
その後、母親が自己破産した際に、親族が「献金の一覧を出せ」と教団に伝えると、教団側からは「5000万円で勘弁してください」と言われたそうです。
■「地獄に落ちる」 巧妙な献金の集め方
母親は多額の献金をしていたわけですが、教団はどうやって、このような献金を集めているのでしょうか。元信者の女性に話を聞くと、巧妙なカネの集め方が見えてきました。
女性は教団側から、「“先祖の供養のため”、献金しないと地獄に落ちる」などと言われて、支払いを続けてしまったそうです。
■霊感商法の被害なくならず 「人参凝縮液」なる商品も
他にも、「これがこの値段で!?」と驚くような被害例がたくさんあります。
全国霊感商法対策弁護士連絡会と全国の消費者センターによると、2017年~2021年に確認されたものでは、先ほどの女性も買った「つぼ」は25件の被害があり被害額は約7460万円、「絵画・美術品」は10件の被害で約998万円、「宝石類・毛皮」は32件で2065万円の被害があったということです。さらに、「人参(にんじん)凝縮液」なるものもあります。単なるにんじんジュースか高麗(こうらい)にんじんの濃縮エキスなのか、詳細不明ですが、これも20件で約1200万円、1件あたり61万円ほどの被害が出ていました。
こうした内容に教団側は、「2009年以降、霊感商法に抵触するようなトラブルは起こしていない」と言っており、言い分が真っ向から食い違う事態となっています。
■大部分は韓国の本部に送金 全体の5割以上が日本からのカネ
集めたカネがどうなっているのか、長年この問題に取り組んできた紀藤正樹弁護士に話を聞きました。
紀藤弁護士によると、日本の教団では「霊感商法」で集めたカネと「献金」で集めたカネの2つの財布があり、ここから教団の運営費などの実費を差し引いた、残りの大部分は韓国の本部に送金されたり、または現金で直接、持ち込まれたりしているそうです。
そこで集約されたカネは、世界中の教団支部に振り分けられ、それぞれの教団の活動費用に充てられるということです。
このように日本の教団が集めて韓国に送っているカネは、「世界全体の少なくとも5割以上を占めている」とも言われているそうです。
■韓国の教団本部「特別なことがあれば送る」と日本からの送金を認める
韓国の教団本部にも15日、取材しました。教団の幹部はカネについて、「多くはなくても、一定部分を運営資金として、各国から本部に送ることができる。そして、特別なことや行事があれば(本部に)送る」と言っていて、日本からの送金を認めました。
■犯行のきっかけ…友好団体の会合 トランプ前大統領もメッセージ
山上容疑者は、「教団の関係者に安倍元首相が寄せたメッセージを見て、殺害を決意した」と話していますが、犯行のきっかけは、安倍元首相が教団の友好団体へ送ったメッセージ動画だったと言われています。
実はこの会合には、アメリカのトランプ前大統領も同じようにメッセージを送っていました。弁護士らによると、他にもアメリカのアイゼンハワー元大統領や、その3代後のニクソン元大統領と教団創始者が握手をしたり、親しく話していたりする写真もあるそうです。
このように、宗教団体が政治家と関わろうとする狙いについて、宗教社会学が専門の北海道大学の櫻井義秀教授は、「これ以上の『広告塔』はない」と言っていました。「元首相クラスの政治家がイベントなどにメッセージを寄せると、その後の活動がやりやすくなる」としています。
また紀藤弁護士は、政治家にとっても、教団は活動資金を提供してくれる貴重な存在として「利用価値が高い」と指摘していました。言ってみれば、教団と政治家の双方が、互いをうまく利用し合っている面があると言えそうです。
◇
信者らが借金をしたり、家庭を崩壊させてまでして集めた献金などが外国に渡ったり、国内外の政治家らに利用されたりしているのであれば、こうした負の連鎖はどこかで断ち切られなければなりません。今回の事件が浮き彫りにした、宗教と政治の問題も解明が求められています。
(2022年7月15日放送「news every.」より)
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